国字問題につき

田中館 愛橘

(原文は旧字体、旧仮名遣いのため現代文に、一部は意訳としました)

我が国語を、音字で表わしては同音異義が多くて漢字を用いるから欠点である。
本場の中国(支那)人が既にその問題に堪へざらんとして居ると聞き及ぶ。
本来支那の音は約四百種類ぐらいに過ぎぬ。

夫に対して文字の数は五万何千と云うのであるから、一音につき平均百二三十の異なった記号と意義がある。
今我々が普通新聞などで目に触れるもので(例えば)カンという音に対しても寒・干・韓・肝・乾・看・刊・汗・奸・竿・旱(以下略、 博士は41文字をここにあげている)等まだある。
これにある地方でやるように、クワン・官・観・冠・歓(以下略、同様に28文字)を一緒に混ずれば少なくも、七八十及び、百ぐらいになる。

(略)

それだから談話や電話電信で用をたすのに、今日において国語を整理する必要が出てくる。
(以下略)

いかがだろうか。愛橘博士の文はこのあと「だからローマ字が必要となる」と説いておられるが、 この書き出しを読んだだけでも、博士の熱意がひしひしと伝わってくる。

博士が、いかにして(頭の硬い)人々を説得し、理解させるかとの苦心が見えるようである。
ともあれ、明治時代に「ローマ字を国語に!」というのは、想像を絶するご苦労があったことであろう。
「日本式ローマ字」が正式に定められたのは、昭和12年の事である。

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