激励に感激



 公演実現のためにやるべき事は山ほどあったが、まず、パンフレットの印刷費用のために広告協賛をお願いしなければなかった。しかし、我が劇団ではいつも細々と気ままにやって来ていたから、広告費のお願いなど考えた事は無く、思いのほか大変だった。
 いきなり訪問して「演劇のために御協力を!」と言い出せずに、大いに苦しんだけれど、「愛橘先生の舞台ですか。良いことです。是非頑張って下さい。」と二つ返事で応じて下さる企業もあって、とても感激し逆に元気つけられた。本当にありがたいことであった。

 中でも、博士にゆかりのあった電力会社では、「昔、ここには電気風呂というのがあったそうなんですが、愛橘博士は帰郷の度にその電気風呂にお入りになって喜んだそうです。でも、その風呂は結構ビリビリきたらしく、平然とお入りになってる博士に驚いたそうです。」と思いがけないエピソードまで聞くことができた。

 また、某ホームセンターさんに広告をお願いに行ったときのことだ。わざわざ応対に出て下さった専務さんは二つ返事で一口引き受けてくださった。
「これでパンフレットも残せます。ありがとうございます!。」「いやいや。大変なご苦労ですね。しかし、そこまでやるなら費用は大変でしょうね。まにあうのですか?」と聞かれた。

 「いやあ、実は予算の段階ですでに5万円以上の赤字になる見込みです。でも、自分たちがやりたいと思った事ですから。」と頭をかきながら答えた中村だった。すると、じっと話を聞いていた専務さんが、突然叫んだ。「おおい!さっきの広告料。二口分にしてやってくれ!」

 思いがけない言葉に感激し礼をのべた中村に、「楽しみしていますよ。私も愛橘先生はすばらしい方だと思います。公演の日はどうしても予定があって見に行けない。どうかビデオに残しておいて下さい。必ず見させて戴きます。頑張って下さい!」と励まして下さった。本当にありがたい事であった。

だが、落ち着いて考えてみると、我々の活動への応援と言うよりは、「生前の愛橘博士が町の人々に残してくださった徳のお陰」であったろう。改めて博士のすごさが身に染みた。

 一方、各劇団の仲間達も様々な応援をしてくれた。キャスト、スタッフとして参加してくれる。或いは差し入れを持って。「愛橘博士を取り上げることはきっと意味がある。出来ることは手伝うよ」そういって励まし続けてくれた。

 気がつけば、どんどん大規模になっていく。福岡高校音楽部の皆さんにも合唱で参加してもらえる事になった。本番当日の弁当を試算したら90食にもなっていた。不安はますますつのったが、その度に誰かがやってきて「頑張ろう」と肩をたたいて元気を分けてくれた。


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