ミュージカル「Aikitu」脚本


第一幕 第五場(学生と実験)子役Bパート 5人(愛橘も子役・東大生・煙突)
 
(学生たち皆で上を見上げて騒いでいる)
学生1 おい、ほんとにこんな実験で地震計の性能が分かるのか?
学生2  舘先生が言われたんだ。舘先生の言うことに間違いはない
学生3 それはそうだが・・・。よし、お前この地震計を担いでこの上へ上がれ
学生4 先輩、じ、自分は高所恐怖症であります。も、もし、あんな高い所から落ちたら、私は死ぬかもしれません。ど、ど、どうししても上らなければいけませんか
学生3 馬鹿者!そもそも学生の本分は何であるか!
学生4 はっ。勉学であります。一生懸命勉強して、お国の役にたつ為に勉強をするのです
学生3 そのとおりだ。つまり、万一お前がここで落ちて死んでもだ、お前は立派に、学生の本分を全うしたことになる。命をかけて、お国の役にたったことになるではないか
学生4 ・・・・それはそうかもしれませんが、落ちて死ぬのは自分で・・
学生2 やかましい。つべこべ言わずに上がるのだ
学生4 先輩、そんなぁ・・
学生1 いいから上がれ、上がるのだ(学生4、泣く泣く上がる為に機械を担ぎ裏手へ消える)
 
学生2 おーい。聞こえるか。そこで煙突をゆすってみろ。ゆすれ。ゆするんだ!
学生1 なんだ、さっぱり揺れないではないか
学生3 おーい。もっと煙突をゆすれ。何?怖くて揺すれない。それじゃあ実験になるか。馬鹿
愛橘 馬鹿といってるウンジンは誰だ?実験の守備はどんだ?
学生1 はっ、舘先生。それが思うにまかせません。煙突が揺すれず計れません
愛橘  煙突の揺れるのを待っていては実験にならん。よす、わしが揺らすから見てろ。(裏手へ走り去る) 
学生2 あ、先生!舘先生!・・・うわぁ。まるでリスのように駆け上がっている
(全員煙突のてっぺんを見ている動作、やがて少しずつ、次第に大きく左右に揺れ始める)
学生3 お、おい。動いている。動いているぞ、み、右・・左・・右・・左
学生4 (声のみ)ひえーー。こないで、舘先生、こっちにこないで下さい。こないでー
学生2 右・・左・・み、みぎ、おっ。おい少し揺れすぎだ
学生1 うわわ。あわわわ。うわわわわ、あわわわわわ
学生4 (声のみやがて泣き声に)ぎゃー。くるなー。助けてー。おっかー、死にたくねーよー
学生3  いかん。こりゃ大変だ。先生、やめてください。舘先生。うわーー。おおおおぉ
愛橘 (声のみ)なんのこれしき。もっと揺らしてキつんとデータを取らねば、わがねぇ(ダメだの意の方言)!
学生2 わがらない?これほど揺れてるのに、先生は一体何がわからないというのだ?
学生4 (声のみ)ぎゃー。神様仏さまー。おっかーーー
全員 おおー。わーーー。げーー(等々全員が上を見、首を振り走り回って大騒ぎする)
学生1 そうだ!。先生地震計が壊れます。これ以上は機械がこわれますうう。これ以上は、舘先生これ以上は無理ですううう
全員  (それぞれ泣きながら)やめて下さい。舘先生。死ぬなーー。わあああ。おおお。死ぬうう。なんまだぶ。など。
 
元気 ホントかなぁ。
恵美 でも、なんか可哀想だったね。
未来 明治の人たちはみんな命がけで勉強したのね。すごいわぁ。
幸子 それって、なんか違う気が
修斗 だけど博士って、なんでもできたんだね。
ミーネ 博士は身のこなしも軽くて、何でも器用にこなせたそうだけど、周りの人たちはついていけずに、おろおろしたこともずいぶんあったらしいわ。
未来 あぁ。愛橘博士ってすてき。もっとこわい学者さんだと思っていたのに、学生よりも若くてかっこいいわぁ
幸子 それも、なんか違う気が・・。
美稲 でもね、こんな何もかもが初めての時代にユーイングさんとメンデンホールさんという二人の外国人教師が、生まれたばかりの日本の物理学を熱心に導いて下さったのですよ。
父は、彼らが様々な不備や不便を情熱で乗り越え、それを日本の学生に、献身的に、まるで口移しのようにして、教えてくれたのだと言っていました。
メンデンホールさんは、父達と共に日本各地の重力を計ったのです。地磁気や重力の研究は、明治13年から20年までかかった大事業でした。この7年の間に、愛橘は大学を卒業して、準助教授になり、それから助教授になりました。
 

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