ミュージカル「Aikitu」脚本

第二幕 第十四場(天真爛漫父と娘)愛橘A(75歳位で)伴奏音楽18 天真爛漫(老博士のテーマ)
 
(舞台上に弟子3人、ノートを広げ何やら討論している。上手より愛橘登場。)
 
弟子1 あっ。舘先生だ。
弟子2 丁度良い。これを先生にお聞きしてみよう。先生!。舘先生!
弟子3 先生!。お久しぶりです。
愛橘 (うんうんと手を振り会釈しながら次第に弟子達に近づく。もちろん左足は3センチ短い。
手にはステッキ、鞄、山高帽、シャツの裾をはみ出し、靴のひもはほどけている。)
弟子2 先生。この問題について研究しているのですが、どうも上手く参りません。どうかヒントだけでもお聞かせ下さい。
愛橘  (どれどれ、と立ち止まる。鞄を下に置き、山高帽を学生に預け、ノートをのぞき込む)
弟子3 先生、いかがですか。この実験結果と計算とではまるで開きがあって、どう判断すべきか解らないのです
弟子1 計算は何度もやりおなしてみました。もちろん、実験も・・。
愛橘 (何かに気づいた様子。弟子2に向かい聞いている)
弟子2 はい。実験はあの測定器を使って。は?。その時の条件は同じかですって?
弟子1 同じはずです。
愛橘 (首を振りながら、ノートのある部分を強く指さす)
弟子3 あっ。しまった!
弟子2 えっ?何かまずかったのか?
弟子3 あの測定器は3台あるが、一台は壊れて修理に出したではないか!
弟子1 そうか!もしかすると壊れてたのに気づかず、実験を繰り返したのかもしれない。
弟子2 なあんだ。我々はとんだ見当違いをしていたのか。
弟子3 (ノートをのぞき込み)なるほど。2号測定器の結果がどれも同じようにずれている。なんで気がつかなかったのだろう。
弟子1 いやあ。さすがは舘先生。大いに助かりました。
弟子2 やれやれ。もういちど、実験のやり直しです。今度こそきちんとやります。
愛橘 (にこにこと3人を見回し、大きくうなずく。やがてステッキを取り、鞄を持ち歩き出す。三人頭を下げる。)
弟子3 あっ。先生、お帽子をお忘れです。先生帽子です!。
愛橘  (立ち止まり、鞄を置く。学生から帽子を受け取りかぶる、会釈してそのまま歩き出す。三人揃って頭を下げる。)
弟子2 あっ。先生。舘先生。鞄。鞄です。
弟子1 (鞄を持ち追いかける)先生!。舘先生!
 
愛橘博士は、ズボラ博士などとも言われるほど、よくモノを忘れたという。人のコーヒーを飲むなどは当たり前。帽子や傘を良く忘れるので、ついにレインコートを持たせたら、その事をすっかり忘れていた。
しかし、これを冷やかされると「大事なときに失敗をしないよう、普段忘れ物をするのだ。大事なときに忘れ物をしたことはない」といったとか。確かに、弟子の話でも「いざというときは、これほどまで、と思うほど準備をしていた。研究の為の七つ道具を手放す事はなかった」と言っている。
*スクリーンおろす・映像映す*
美稲 東京大学を辞めた愛橘は、前にもまして多忙を極めました。辞めるときの条件だった、東京大学航空研究所での飛行機の研究。国産化の為に必要な技術開発や人材教育を進めました。
一方で愛橘は、日本代表の科学者として毎年のように海外へ出かけました。それは六十二才から七十九才までの十七年間も続けられたのです。
ミーネ 海外での博士の仕事は、国際連盟知的協力委員会など、様々な国際会議に出る事。その一方で、当時の日本には無い最先端の精密機械、工作機械を買ってきたり、学術書・技術書を持ち込んだりしています。博士は世界最新の情報をいち早く日本に伝えたのです。
日本を代表する科学者として、時にはあたかも外交官のように、多くの国の人たちと交流し、日本の気迫を伝えたのです。
ユートン オホン。日本からヨーロッパへ船なら2ヶ月もかかる時代に、毎年のように外国を訪れる博士に感心した、ある科学者がこう言いました。
「地球には二つの衛星がある。一つはもちろん月だ。そしてもう一つはドクター愛橘だ。
愛橘は毎年地球を一回りしてやって来る。」
ミーネ  「地球を回る日本人」愛橘博士は生涯に68回の国際会議に出席しています。日本に帰れば、東大航空研究所、そして貴族院議員もつとめる忙しさです。
 
愛橘博士は、日本よりも海外でその名を知られていたようだ。国際連盟知的協力委員会など、さまざまな国際会議に、日本代表として出席した。
当時の交友の中には、アインシュタイン、レントゲン、ギョーム、キューリー婦人など、世界的に著名な科学者も多かった。

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