ミュージカル「Aikitu」脚本
第二幕 第十五場 伴奏音楽14 故郷 | |||||
美稲 |
七十才を越えてなお、ますます忙しい父でした。けれどもこんな中で、何よりも全力を尽くしたのが、日本式ローマ字の普及でした。そんな大正15年4月7日。ふるさと福岡町で古希のお祝をして戴けることになりました。 愛橘は福岡に着くと、まず父稲蔵の墓参りを済ませ、その足で、呑香稲荷神社へ向かいました。その早いこと。まるで不自由だった左足のことなど忘れています。 |
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愛橘 | 「いだがぁー。・・・・ああ、いだいだ!」 | ||||
美稲 | 懐かしい人たちに囲まれて愛橘は、大声で笑い、良くしゃべります。まるで子供の様に、はしゃぎました。けれども福岡弁が続くと私にはもう解りません。 | ||||
愛橘 | 「あずきばっとかせろ」 | ||||
美稲 | 突然父の大声にみんながどっと笑いました。やがて食べ物が出されて、私はようやくその意味がわかりました。「あずきばっとう」は愛橘の大好物だったのです。食べた瞬間口に広がった甘さは、そのままふるさとの優しさでした。 | ||||
愛橘 | 「まっとけろ」(もっと下さい) | ||||
美稲 |
大きな声でお代わりする父。私は胸が一杯でとてもお代わりできませんでした。お酒も入り、ますます陽気になった愛橘は、いきなり歌を歌い踊り始めました。初めてみる父の踊りです。 いつしかその歌に笛が入り太鼓が鳴りました。そしてみんなが輪になって踊り出しました。それは懐かしい呑香稲荷神社のお神楽でした。 |
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ユートン | それにしてもロボットみたいに元気なじじいだ。どんな電池を使っていたのかなぁ。分解して・・・。(ミーネの視線にとぼけ)あれ、待てよ。さっき左足が不自由とか言ってました? | ||||
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ミーネ | 言いました。愛橘博士の左足は右足より3センチ短かった。 | ||||
ユートン | 短い?どうして? | ||||
ミーネ | それはね。 | ||||
ユートン | (食い入るようにミーネ見つめる) | ||||
ミーネ | (反対を向く)それはね。 | ||||
ユートン | (反対にまわって、再び食い入るようにミーネ見つめる) | ||||
ミーネ | (反対を向く)それはね。 | ||||
ユートン | (反対にまわって、再び食い入るようにミーネ見つめる) | ||||
ミーネ | スイッチ切ってやる!(ユートン走り去る)博士が60才の時、自転車で転んで、股の骨を折ったから!。 | ||||
ユートン | (堂々と出てきて)それみろ、60にもなって自転車なんか乗り回すからだ。 | ||||
ミーネ | (ユートンをプツン)博士は60どころか70を越えても元気だったの。あんまり元気で、電車に飛び乗ったり、電車から飛び降りたりするんで、とうとう交通局からきつく注意されてるのよ! | ||||
ユートン | (キューィン)なんて命知らずな爺さんだ。 | ||||
ミーネ | 命?命なんてものは、とっくに国にささげた博士なの!何事も死ぬ気で取り組んで来た人なの!。 | ||||
ユートン | ふ〜ん。(にっこりと)それにしても、古里の人に囲まれてのお祝いは、嬉しかったんでしょうね。 | ||||
ミーネ |
はい。(にっこりと)ちなみに博士はこの時のことを歌に読んでいます。 「心ある 人の宴の 夜神楽に こだまにぎおう 呑香の杜」(繰り返す) |
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{音楽13} | 「心ある 人の宴の 夜神楽に こだまにぎおう 呑香の杜」金田一歌の集い | ||||
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