ミュージカル「Aikitu」脚本

第二幕 第九場 その3(愛橘発見)愛橘B 伴奏音楽7 星空
 
弟子1 明治24年(1891)10月28日早朝、岐阜県、愛知県を中心に大規模な地震がおきました。マグニチュード8.4、死者7273名、建物の全壊14万棟という大変な被害でした。このとき愛橘先生は直ちに岐阜に駆けつけます。
(夜、星が輝いている。提灯で弟子達がテントを張っている。寒い夜で手に息を吹きかける弟子達)
弟子3 舘先生、やっとテントを張りました。
弟子2 舘先生寒さもこたえます。テントの中でお休み下さい。
愛橘 何、やすめだと。君、そりゃあウンジンだ。さっさと天測を始めろ!
弟子1 えっ。今からですか!
愛橘  なんど?君は天測の仕方を忘れたのか!
弟子1 はっ?。いいえそんなことはありませんが。
愛橘 だらば、すぐに天測だ。
(弟子達、あわてて観測したり、計算を始める。愛橘下手へいき、アルコールランプで何かを熱している。やがてそれを布にくるむ)
弟子2 あーぁ。腹が減った。砂糖水でものみたいなぁ。
愛橘 こんなことでへこたれるやつがあるか!。ウンジンである!
弟子2 あ、先生!
愛橘 今天測をして時間の狂いを正しておかねば、地磁気と地震の関係もでたらめになってしまうべ。何のためにここさ来たのだ。
弟子1 はい先生。それはこの地震によって地磁気や色々なものが変化していないか、それを調査するためであります。
弟子3 ・・しかし、もし明日一日雨でも降ったら星は見えない。ということは天測ができない。
弟子2 その通りだ。今やらなければ、ここに来た意味も無くなってしまう。舘先生!。
愛橘 ははは。・・・いいか。こんただ山の中の不便な場所で、真剣勝負の仕事をしてこそ、肝がねれると言うものだ。
弟子2 肝・・。はっ。肝を練らせていただきます。では。
愛橘 おい。君待ちたまえ。持病は落ち着いたか。こうしばれては痛みもひどかろう。これを腹にあてて暖めろ。
弟子2 先生。…ありがとうございます。
愛橘 なんの。ちゃんと暖めろよ。
 
弟子3 おい、もう夜が明けてくるぞ。天測は間に合うか?
弟子1 ああ、何とか大丈夫だ
愛橘 おお鳥の声だ。もうじき周りの景色も見える。これでよく分かるぞ。
弟子2 あぁ、先生そんなに歩き回られては危険です。まだ暗いですからもう少し待ちましょう。
愛橘 なんの。心配無用。君らは休んでおれ。
弟子3 舘先生!あぁ行ってしまわれた。まぁ、お留めしたところで先生は行ったろう。こうと決めたら待ったなし。納得の行くまで寝食を忘れてがんばる方だ。まったく先生は化け物だ。
弟子1 おいおい化け物はないだろう。確かに舘先生が怒るとすさまじいが、雷の後は怒ったことさえ忘れて、ニコニコとしておられる。おれには舘先生は化け物どころか、神様に見えるよ。
弟子2 神様か。そうかもしれんな。まるで雲のようにおおらかに空に浮かんでいる。
弟子3 雲の神様か。なるほどそれは良い。雲の神。雲神(くもがみ)。いやウンジンか。
弟子1 ウンジン?それじゃ舘先生が怒鳴る時の口癖じゃないか。ウンジンである!
弟子2 ウンジン博士か!これはぴったりかもしれんな。
三人 そうじゃ。いいぞ。わははは(明るく笑いあう)
 
弟子2 あ、舘先生が戻られた。
弟子1 先生お帰りなさい。様子はいかがでした。
愛橘 すごいぞ。たいへんなことだ。とんでもない断層ができておる。
弟子3 断層?何処に断層ができたのですか?
愛橘 それが断層だべ。(後ろの断層を示す)
弟子2 この崖が断層?ま、まさか。5m以上ですよ。それが地震でできたというのですか?
愛橘 この断層はずっと先まで続いている。すぐに写真屋をよんでこれを写すのだ。
弟子1 はい。ではとりあえず役場に行ってまいります。
愛橘 頼むぞ。さあ、残った我々は、まずこの断層の地磁気を徹底的に調べるのだ。
弟子たち はい。直ちに!

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